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月刊The Lawyers 2007年3月号(第91回)

3. Ventana Medical Systems, Inc. 対
BioGenex Laboratories, Inc.事件

Nos. 2006-1074, 2006 WL 3821175 (December 29, 2006)

- 特許侵害訴訟に脅かされている第三者が確認訴訟を提起できる要件を取り扱った事件 -

本件は、アリゾナ地区の米国地方裁判所で行われた侵害訴訟であり、原告はVentana Medical Systems, Inc.(以下、Ventana)、被告はBioGenexLaboratories, Inc.(以下、BioGenex)である。

Ventanaは、BioGenexの製品が米国特許第6,352,861号(以下、861特許)を侵害していると主張した。Ventanaは、試薬システムの製造及び販売を行っている。この試薬システムは、臨床検査室及び創薬ラボにおいて、スライドの準備、及び顕微鏡用スライドの染色を自動化するものである。

Ventanaの試薬システムは、伝染病及び癌の診断や治療に使用される、重要なツールである。発明の名称が「自動化された生体反応装置」である861特許は、自動化された染色プロセスにおいてバーコードを使用することをカバーしている。

BioGenexは自動化された染色装置の製造者である。Ventanaは、BioGenexが861特許のいくつかの請求項を侵害していると主張した。申し立てられた全請求項に登場する「投薬する(dispensing)」という文言の解釈に基づいて、地方裁判所は、BioGenexはVentanaの特許を侵害していないと判断した。

控訴審において、Ventanaは、「投薬する」という文言の範囲を地方裁判所が不適切に限定したと主張した。地方裁判所の解釈では、試薬の容器が試薬の投薬装置を兼ねている状況(すなわち、「直接投薬」の状況)において投薬する方法しかカバーされない。

Ventanaは、投薬に関する「すすって注ぐ(sip and spit)」方法も含まれるように、「投薬する」という文言を解釈すべきであると主張した。BioGenexは、Ventanaは「すすって注ぐ」方法に関する権利を特許明細書において黙示的に放棄していると主張した。

CAFCはVentanaの主張を認め、請求項の文言には、通常は、「通常かつ慣用的な」意味が与えられると述べた。換言すれば、請求項の文言には、「当業者が意図するであろう意味」が与えられなければならない。

特許明細書の「背景技術」の項目、及び実施形態において、専ら直接投薬に言及されているからといって、必ずしも、請求項の範囲自体がその方法しかカバーしないように限定される必要はない。

特許明細書は請求項の文言の解釈を補助する場合もあるが、発明の範囲を規定するのはあくまでも請求項である。それゆえ、CAFCは、通常の意味に従って「投薬する」という文言を解釈した。すなわち、861特許において申し立てられた請求項は、直接投薬、及びすすって注ぐ投薬の両方をカバーするものである。

また、BioGenexは、861特許の発明者が、審査過程における権利放棄の原理の下、「すすって注ぐ」ことの権利範囲を放棄したと、主張した。

BioGenexによれば、発明者は、米国特許出願第07/924,052号(以下、052出願)、及び861特許の後で許可された2つの特許、米国特許第6,943,029号(以下、029特許)及び米国特許第6,827,901号(以下、901特許)の審査過程で「すすって注ぐ」投薬の権利を放棄した。

発明者は、すすって注ぐ方法を使用した従来のデバイスが直接投薬の方法を使用できないということを理由に、従来のデバイスとの差別化を図っていた。

861特許は、052出願の継続出願の分割出願を、継続出願し、さらに継続出願に基づいて発行された特許である。029特許及び901特許は、861特許の基となる出願の継続出願に基づいて発行された。

CAFCは、BioGenexの主張を却下するに際して、次のように述べた。(052出願、及び029特許と901特許それぞれのような)子出願と兄弟特許との審査経過は、発明者が発明をどのように理解しているかを示すことにより、請求項の文言の意味について情報を与えて請求項の範囲を限定する場合もある。

しかしながら、子出願または兄弟特許における請求項の文言が係争対象特許とは異なる文言を使用している場合、この原理は通常は適用されない。861特許の請求項1及び5は、052出願、及び029特許と901特許に見られる文言とは異なる請求項の文言を使用しているので、「すすって注ぐ」方法に関して申し立てられた権利放棄は、861特許には適用されない(注)

少数意見として、CAFCのLourie判事は、争点の「投薬する」という文言を明細書に照らして地方裁判所は正しく解釈していたと主張した。

Lourie判事によれば、当業者は、請求項の文言自体のみに基づいて請求項を理解するのではなく、特許明細書の文脈において理解するものであると考えられる。請求項の範囲を解釈する際には、「要約、サマリー、実施形態及び図面」を必ず重視するはずである。

本件では、特許明細書が請求項の文言の解釈に使用される場合もあるが、請求項の文言の「通常かつ慣用的な」意味が依然として支配的であるということを、CAFCは示した。さらに、審査過程における権利放棄の原理は、審査経過において述べられたことが親出願の請求項において限定を表現することに関連する場合には適用されないということを、CAFCは判示した。


(注) 請求項1及び5とは異なり、052出願は、試薬が「サンプルに直接投薬可能であること」を要求する。同様に、901特許において、「それによって前記試薬は、前記容器の下端から前記スライドへ投薬可能になる」という文言が先行技術を回避するために追加された。しかし、この文言は、係争対象である861特許には含まれていない。同様に、029特許は、先行技術と差別化するための文言として、試薬の容器とスライドの支持部材とが「前記試薬の容器が前記スライド上に位置するように相対的に」移動することを要求するが、これも861特許には見られない。

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