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月刊The Lawyers 2007年2月号(第90回)

1. PHG Technologies, LLC 対
St.John Companies, Inc.事件

No. 2006 WL 3334937 (Fed. Cir. 2006)

- 意匠がもっぱら機能にのみ依存するものではないことを立証するために
代替意匠が存在することが証拠として争われた事件 -

PHG Technologies, LLCのケースでは、テネシー州中部地区を管轄する地方裁判所は、PHG Technologies, LLC(以下、「PHG」)による、St. John Companies, Inc(以下、「St. John」)に対する仮差止命令の請求を認めた。しかし、CAFCはこれを破棄した。

1995年以来、PHGは合衆国において、ある種の医療患者識別ラベル及び識別ラベル用ソフトウェアの販売を事業としてきた。PHGは更に、本件で争点となっている2つの特許―米国登録意匠第D496,405号(以下、405意匠)及び米国登録意匠第D503,197号(以下、197意匠)―を保有している。いずれの意匠も、ある種の医療用ラベルシートの装飾的デザインを対象とするものである。2つの意匠間の相違は、405意匠においては境界線が権利の一部として主張されているが、197意匠においては主張されていないことである。更に、これら2つの意匠は、審査中の特許出願第09/952,425号(以下、425特許出願)に従属するものである。

被告であるSt. Johnも、PHGと競合して合衆国において医療患者用識別ラベルを販売している。PHGは、特に、St. Johnの医療用ラベルシートが405意匠及び197意匠の各意匠権を侵害しているとして、St. Johnに対する訴訟を提起した。訴訟提起から2週間後に、PHGは、St. Johnが侵害被疑品である医療用ラベルシートの販売を継続していることに対し、仮差止命令の請求を行った。

St. Johnは、PHGの製品である医療用ラベルシートは、もっぱら機能的なものであると主張した。PHGは、創作者の1人による証言によりPHGの主張に反論した。証言によれば、その創作者及び共同創作者らは、種々の医療用ラベルの構成について試験を行い、「創作者らにとって最も美的に満足のいったもの」を権利対象のデザインとして選択したということであった。

地方裁判所は、PHGが本件に勝訴する合理的な蓋然性を立証したと結論付け、また、差止命令が発行されなければ回復不可能な損害が発生すると判断した。St. Johnによる侵害被疑品の販売の継続を禁止することを支持することに関し、差し止めに伴う不利益と公共の利益とのバランスを重視した。それゆえ、地方裁判所は、PHGによる仮差止命令の請求を認めた。

St. Johnは、PHGが本件に勝訴するとした地方裁判所の判断を不服として控訴した。そして、St. Johnは、PHGが侵害を立証できていると考えたことについて地方裁判所は判断を誤っており、また、争点である意匠登録の有効性に対するSt. Johnの申し立てについて実質的な審理が欠けていたと主張した。控訴審で、CAFCは、地方裁判所が仮差止命令の請求を認める決定を行ったことは裁量権の逸脱であると判断し、意匠登録されたデザインが機能的なものであるか美的なものかであるかは本質的な問題であると説明した。

St. Johnは、意匠登録されたデザインは機能面に対する副産物に過ぎないと主張し、425特許出願においてPHGが行った多数の主張、及びSt. Johnの最高経営責任者であるAdam Pressが作成した宣誓供述書を、St. Johnの主張を裏付けるものとして提示した。St. Johnは、医療用ラベルシートに関するラベルの全体構成はそのシートの用途及び目的による影響を受けており、その構成を欠く代替的なデザインはそのシートの有用性に悪影響を及ぼすものであると主張した。St. Johnは更に、PHGはSt. Johnが示した登録の無効性に反論する証拠を何ら提出しなかったのであるから、意匠登録されたデザインがもっぱら美的なものであると地方裁判所が判断したことは明らかに誤りであったと主張した。

PHGは、意匠登録されたデザインは医療用ラベルシートの用途及び目的による影響を受けているわけではないので、地方裁判所の判断は正しかったと反論した。PHGは更に、デザインが機能的な特徴を有する一方で、シート上のラベルに関する種々のサイズによる構成はもっぱら美的なものであると主張した。

CAFCは、判例によれば次のことが明らかであると述べた。すなわち、侵害被疑品の代替的なデザインに関して十分に審理すれば、「侵害被疑品の代替的なデザインが特定の物品の有用性に悪影響を及ぼすか否か」に関する判断が示され、したがって、判例の範囲内で、代替的なデザインは実際には「代替物」ではないということになる。CAFCは続けて、地方裁判所は複数の代替物が存在するという認定にのみ依存していたが、いずれかの代替物が医療用ラベルシートの有用性に悪影響を及ぼすか否かに関しては何ら認定を行わなかったと説明した。

CAFCは更に、地方裁判所はSt. Johnによる証拠を考慮していなかったと指摘した。CAFCは、St. Johnが提出した証拠は意匠登録の無効性について本質的な疑義を生じさせるのに十分であり、PHGが本件に勝訴する蓋然性があるということに関する立証責任を果たしたと結論付けたことは明らかに地方裁判所の誤りであったと判断した。CAFCは更に、PHGによる仮差止命令の請求を認めるにあたって地方裁判所が裁量権を逸脱したと考えた。それゆえ、CAFCは地方裁判所による仮差止命令の承認を破棄した。

本件は、「係争対象のデザインが機能性に関する無効理由を克服できるか否かを判断する際に、代替的なデザインの存在が克服を支持するものとなり得るか否か」に関する実例である。代替物がデザインの有用性に悪影響を及ぼす場合は、単に代替物が存在するというだけでは、デザインがもっぱら機能的であるということを立証することにはならない。

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