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月刊The Lawyers 2006年10月号(第86回)

1. Inpro II Licensing, S.A.R.L. 対
T-Mobile USA, Inc., et al.事件

No. 2005-1233 (May 11, 2006)

- クレームの解釈における他のクレームの記載と審査経過 -

本件では、CAFCは、デラウェア地区の米国地方裁判所が行ったクレームの用語の解釈に対する異議を扱った。Inpro II Licensing, S.A.R.L.(以下、「Inpro」と呼ぶ)は、米国特許第6,523,079号(以下、「079特許」と呼ぶ)の特許権者である。079特許は、クレジットカードサイズのPDAに関するものであり、従来のPDAにおけるサイズとデータ転送に関する制約を解消するものである。079特許のPDAは、ホストインタフェースを介して、ホストコンピュータの適切なベイに接続することができる。PDAが接続されると、コンピュータのCPUは、PDAのメモリやその他の機能にアクセスすることができる。

Inproは、T-Mobile USA, Inc. 、Research in Motion Limited 、及び、Research in Motion Corporation (以下、まとめて「T-Mobile」と呼ぶ)が079特許のクレーム34、35、及び、36の特許侵害で提訴した。それに対して、T-Mobileは、非侵害及び特許無効の宣言を求めて反訴した。地方裁判所は、クレームの解釈についてマークマンヒアリングを行った後、非侵害についてT-Mobileに有利な判決を下し、特許無効については却下した。

CAFCに対する控訴では、「ホストインタフェース」、「ホストコンピュータとドッキングする」、そして、「デジタルアシスタントモジュール」という用語に関する地方裁判所の解釈が問題とされた。

両当事者は、「ホストインタフェース」または「ホストコンピュータとドッキングする」に関する地方裁判所の解釈が支持された場合は非侵害であるという点で争いはなかった。Inproは、地方裁判所が「ホストインタフェース」を「ダイレクトパラレルバスインタフェース」として限定的に解釈したことは誤りであると主張した。

クレーム2、24、及び、33は、「パラレルバスインタフェース」に言及している。クレーム3、25、及び、32は、「ダイレクトアクセス」パラレルバスに言及している。Inproは、クレーム34は特定のインタフェースに言及しているわけではないからパラレルバスインタフェースに限定されない、と主張した。

T-Mobileは、明細書にはパラレルバス接続のみが開示されているからホストインタフェースの定義は限定されるべきである、と反論した。

CAFCは、T-Mobileに有利な地方裁判所の判決を支持した。CAFCは、クレーム区別論に基づき、次のように述べた。「異なるクレームは異なる権利範囲を持つものであると推定されるが、クレームの構成要素を説明するために異なる用語を用いても、必ずしもクレームの権利範囲が変化するとは限らない」。

明細書中の唯一のホストインタフェースがパラレルバスインタフェースであるからインダイレクトインタフェースやシリアルインタフェースはクレームの要件に組み込まれるべきではない、というT-Mobileの主張をCAFCは認めた。

CAFC及び地方裁判所はさらに、ホストインタフェースに関する特許の記載は、パラレル接続の利点及びシリアル接続の問題点を強調している、と指摘した。裁判所は、特許の審査経過を参酌して、パラレル接続がPDAの機能を改善するために不可欠であり、クレームのポイントであると判断した。

CAFCのニューマン(Newman)判事は少数意見として、控訴審において2つの他の用語に関する解釈を判断せずにCAFCが判決を下したことに対して懸念を表明した。特に、ニューマン判事は、「デジタルアシスタントモジュール」に関する地方裁判所の広い解釈によれば079特許は無効になる可能性があり、その結果、この技術分野で技術革新を試みる競合者に不安を与える、と述べた。

本件は、争点となっているクレームの文言それ自体からは広い解釈が可能であるとしても、そのクレームの権利範囲は他のクレーム及び審査経過によって限定され得るものであることを示した。CAFCは、特許全体を参酌して、パラレルバスインタフェースが発明の効果を生み出すものであると判断し、それゆえ、「ホストインタフェース」に対する記載はパラレル接続に関するものであると判断した。

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