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月刊The Lawyers 2006年9月号(第85回)

2. Miguel Torres, S.A. 対
Bodegas Muga, S.A 事件

No. 2005-1520 (April 10, 2006)

- 同一指定商品に使用された商標の類比判断を取り扱った事件 -

Miguel Torres事件において、CAFCは、商標審判抗告部(以下、Board)のBodegas Muga(以下、Muga)の登録原簿への登録申請に対するMiguel Torres(以下、Torres)の異議申立に対して、Mugaの商標と既存のTorres商標との間に明からな混同のおそれはないとし、Torresの申立を棄却する決定を支持した。

MugaとTorresの両者は米国でワイン販売をするスペインのワイナリーである。

1998年3月27日にMugaは、米国特許商標庁(以下、PTO)に、特定のデザインと共に標章「MUGA TORRE」を 「ワイン」を指定商品として、商標登録申請を行った。Mugaが商標出願した年の12月、Torresは、Mugaの標章がTorresの標章に非常に類似しており、Muga商品について原産地の混同のおそれがあるとの理由により異議を申立てた。一般的には、そのような混同の可能性がある場合は、PTOはその商標を登録できない。

特定の商標の元で、商品の原産地の混同のおそれがあるか否かの判断をするには、Boardは13の要因を検討しなければならない。E.I. DuPont De Nemours & Co., 476 F.2d 1357, 1361 (CCPA 1973) (以下、DuPont 要因)。本件においては、Boardはこの要因分析に従うと8つの要因が関連しており、そのうちの3つの要因(商品の類似性、確立された販売経路の類似性、販売条件と購買者の識別力)については、Torresに有利と判断した。

しかしながら、残りの5つの要因(商標の類似性、先行商標の著名性、類似商品における類似商標の第三者の使用の有無、実際の混同の証拠、実際の混同を生ぜずに商標を同時に使用できる範囲)の全てはMugaに有利と判断した。Boardは、最終的に全てを考慮し、出願が拒絶されるほどの混同のおそれはないと判断した。Torresはこの決定に対して控訴した。

商標の外観、称呼、観念及び商業的印象の類似性に関して、Boardは相互に顕著な類似性はないとした。Boardは基本的に、購買者はTorresの商標をTorresの名字に属すると考え、対照的に、「MUGA TORRE」は、Mugaの名字、あるいは「MUGA tower」3を購買者に想起させると判断した。

CAFCはBoardの分析を支持し、商標の「焦点」である「torre」もしくは「tower」に対して、一層の注意を払うべきであるとのTorresの主張を退け、(1)Torresが、購買者が商標のどの部分を特に記憶に留めているかの証拠を提供しなかった点と(2)Torresの所有者であるMiguel Torresの著名度、会社名であるMiguel Torres、及びMIGUEL TORRESの商標は、Torresの商標が家族の名前を第一に想起させるというBoardの結論を全体として支持するものであると認定した。

CAFCは更に、Torresは良くある名字で、反対にTorreは珍しい名字のため、購買者は「MUGA TORRE」をMUGAの自家製ワインと捉える可能性があると判断した。

第二に、TorresはBoardの判決に対して、ワイン業界の刊行物や新聞記事での数多くの表彰を受賞していることを主張し、先行商標の著名性を訴えた。しかしながら、CAFCはそのような批評家の称賛やメディアによる好ましい引用は、確かに商標の著名性の「証拠となる」が、Torresの商標は「或る程度の認識力がある」としたが、「紛れもなく有名である」訳ではないと判断したBoardの決定を支持した。

第三に、Boardは「類似商品に使用される類似する標章の数と種類」を検討した。実際に判断されたように、「TORRE」の使用が第三者の間で大変に普及しており、購買者はわずかな違いであってもそれらの使用の違いが分かるのであれば、この要因についてはMugaに有利に判断される。

そこでBoardは、第三者の以下の使用に関する証拠を検討した。

(1)「TORRE」がイタリア語、ポルトガル語で「塔」を意味するのと同様に、スペイン語でも塔を意味すること。

(2)レストランのメニューや「ワイン愛好家の究極のワイン購入ガイド」のような刊行物や他の証拠にも、ワインの名前に「TORRE」が使用されていること。

(3)Torresの証人の一人が「TORRE」と言う単語を含んだ他のワインを知っていると証言していること。

(4)ワインに関連して「TORRE」の単語を使用している4つの商標登録が存在すること。

CAFCはBoardの決定を支持し、Torresの主張である、それらの証拠がレストランや小売店での顧客層の多さを検討していないとの主張、及び、商標自体は実際の使用や消費者の知識を示すのに十分ではないとの主張を退けた。

さらにCAFCは、Mugaの証拠のいくつかには「最小限の事実関係」を示すものがあるが、上記の証拠の数や地理的範囲は、その単語が世界中に広く知れ渡っているとの認定を支持するものであったことを認めた。

第四に、CAFCは、Torresが実際の混同を示す証拠を提示しなかったとしたBoardの判断を支持した。Torresは、MugaTorreのワインの販売量が少なく、また、米国の購買者と、販売経路及びスペインのワイナリーとの間に数多くの仲介層があるため、実際の混同の可能性を図るのは難しいとして、Boardが実際の混同に関して重点を置くのは好ましくないと主張したが、このTorresの主張は退けられた。

最終的にCAFCは、Mugaの商標は、消費者に商品の原産地の混同を与えるおそれがないとのBoard判断に同意した。

Torresの判決において、CAFCは、Boardの決定の再検証には、文書から、証言、外国における起源や保護対象の語や標章の外国での使用についての考慮までに及ぶ、意味のある証拠によって支持された事実に基づいた分析が必要となることを、明らかにした。


(注) 「Torre」はスペイン語で「塔」を意味し、「Torres」は「塔」の複数形を意味する。

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