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月刊The Lawyers 2006年5月号(第82回)

2. Aspex Eyewear, Inc. 対
Miracle Optics, Inc.事件

No. 2004-1265 (January 10, 2006)

- 第三者に期間限定で排他的ライセンスを許諾した場合に
特許権者が侵害訴訟の当事者適格を有するか否かを判断した事件 -

Aspex Eyewear事件において、CAFCは、特許権者が一定期間に特許発明品の製造、使用及び販売の排他的ライセンスを許諾した場合でも、特許権者が特許の全ての実質的な権利を譲渡したことにはならないと認定した。

控訴審での最初の争点は、特許権者ContourがライセンシーChicに全ての権利を譲渡したか否かであり、更に、すべての権利を譲渡していたならば、Contourには非侵害の訴訟を起こす当事者適格がなかったのではないかが問題となった。

争点の米国特許6,109,747号(747特許)は、サングラス等の予備のレンズを眼鏡のフレームに装着するための磁石式取付金具を備えた眼鏡に関するものである。747特許はContourを譲受人として、2000年8月に特許付与された。

Contourは2001年3月にChicと契約を締結し、Chicに対し、(1)米国内における特許発明品の製造、使用及び販売に関する排他的ライセンス、(2)特許侵害の訴訟を提起できる優先権、及び(3)第三者にサブライセンスの権利を無制限に付与できる権利を付与した。契約においてContourは、Chicが訴訟を提起しない場合にContourが第三者に訴訟を提起できる権利を留保していた。

契約には更に、2006年3月のライセンス契約満了後は、Chicに付与された全ての権利が失効する旨が規定されていた。

ChicがContourと契約を締結して1ヶ月もしないうちに、ChicはAspexに全ての権利をサブライセンスする契約を締結した。しかしながら、サブライセンスの契約を締結する前に、AspexはContourと共に 747特許の侵害訴訟をMiracle Opticsに提起した。

地方裁判所は、両者には特許侵害の訴訟を提起する当事者適格がないことを理由に訴えを棄却し、Aspexが特許に関する権利を提訴時点で獲得していなかったため、Aspexには当事者適格がないと認定した。

地方裁判所は更に、Contourは747特許の実質的権利を全て譲渡し、譲受人としてChicに権利が移転していたため、訴訟を提起する当事者適格がないと認定した。

控訴審において、Contourは、ある一定期間だけ排他的ライセンスをChicに付与しており、特許に関する実質的権利は留保していたと主張し、この契約は単なる復帰権的権利以上のものであり、存続期間満了のかなり前に特許権を取り戻す予定であったと主張した。

Contourは更に、訴訟権及び747特許権の譲渡に関するChicの権限を制限する権利を保持することにより、特許の所有権を留保していたと主張した。

当事者適格の争点を初めから審理して、CAFCは、ContourとChicの契約には、特許の全ての実質的権利を移転することは含まれていなかったと認定した。

契約においてChicに与えられた権利は、どんなに実質的な内容であろうが特許の存続期間満了のかなり前に終了してしまうものである。

特許権者が全ての実質的権利を移転したかどうかの判断は、「誰が事実上特許を所有するのか?」という問題に依存する。

ある一定期間だけ権利を所有しても、Chicが事実上特許を所有することにはならない。

CAFCは、移転特許が二度と譲渡人には戻らないと推定される他の契約と異なり、ContourとChicの契約は、明示的に、一定期間後に全ての特許権をContourに戻すと定められていた。

CAFCはさらに、判決において契約書を譲渡書として解釈しないという方針理由を述べた。

第一に、契約の満了規定は、提訴された侵害者を複数の訴訟にさらす可能性がある。Chicが契約期間内に侵害者を提訴し、その契約が終了すれば、次はContourが同じ侵害者を訴えることが可能になる。

第二に、限られた権利しか持たない当事者に特許に関する当事者適格を認めれば、特許権者が当事者ではない裁判において、ライセンスに係る特許が無効又は権利行使不可と認定されてしまう危険性がある。

ContourはChicよりも遙かに長い期間特許を所有するが、もし契約書が譲渡証とみなされれば、Chicが自己の名義で権利行使することで、Contourが将来747特許によって享受するはずの利益を脅かすことが可能になってしまう。

Aspex事件は、特許権者が一定期間だけ権利を移転する場合には、特許の価値にかかわらず事実上の特許の所有権を保持しておくことの重要性を明示している。特許弁護士がライセンス契約書を起草する際には、どの権利を特許権者側で留保すれば、特許権者が事実上の特許所有者となり、かつ、特許権者自身が侵害訴訟を提起できるようになるのか、を十分把握しておくべきである。

また、特許事件の両当事者は、係争特許の所有権を確認し、当事者適格の有無を判断すべきである。

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