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月刊The Lawyers 2006年4月号(第81回)

2. Norian Corp. 対 Stryker Corp.事件

No. 2005-1172 (December 6, 2005)

- 「consisting of」は非常に限定的な文言であることが確認された事例 -

Norian事件の第1次控訴審において審理が地裁に差し戻された後の第2次控訴審において、「リン酸ナトリウム」という文言を、単一のリン酸ナトリウムを意味していると解釈したことによる下級裁判所の非侵害との略式判決を、CAFCは支持した。

争点の特許は、Norianの米国特許第6,002,065号で、「医療及び歯科処置において、カルシウムリン酸塩合成物を骨セメントとして使用するために迅速にセットするための調製キット」に関するものであった。クレーム8は、キットの一部に「未結合水を有さない乾燥成分である少なくとも1つのカルシウム源、少なくとも1つのリン酸源、および水とリン酸ナトリウムによる混合溶液」が含まれることを記載していた。

Strykerが販売した侵害品のキットはカルシウム源及びリン酸源を含む粉末の入ったガラス容器、スパチュラ、及び0.25Mのリン酸ナトリウム溶液の入った注射器から構成されていた。溶液は2つの異なるリン酸ナトリウムから作られていた。地方裁判所が判断すべき問題は、Strykerのリン酸ナトリウム溶液が、クレーム8の構成要件である「水とリン酸ナトリウムによる混合溶液」であったかどうかという点であった。

Norianは、クレーム8は、異なるリン酸ナトリウム同士を混合した溶液だけでなく、単一のリン酸ナトリウムから成る溶液も含むと主張した。Norianの主張によれば、「"a sodium phosphate" リン酸ナトリウム」というクレーム文言は、単一のリン酸ナトリウムだけでなく、複数種のリン酸ナトリウムからなる混合物も包含するものと解釈されるべきというものであった。

地方裁判所はいくつかの理由からNorianの主張を拒絶した。まず裁判所は、主張のクレームは、クレームされた溶液の内容物を定義する「〜から構成される(consisting of)」という限定的な文言を使用していることに注目した。この文章において、「a」(1つの)という冠詞は、溶液が水と単一の溶質、すなわち、異種のリン酸ナトリウムの混合物ではない1種類のリン酸ナトリウムの溶質から構成されることを意味していると狭義に解釈されなければならない、と裁判所は判断した。

裁判所はこの解釈の根拠を明細書中に見出した。明細書において、単一のリン酸ナトリウムから作られた溶液が繰り返し引用されているが、2以上のリン酸ナトリウムからなる溶液の生成については全く記載されていなかった。

裁判所はさらに、「"at least one" 少なくとも1つ以上の」という文言ではなく「『a』1つの」という冠詞を使用したことは、クレームの溶液において、単一種のリン酸ナトリウムを使用することを示すものであると指摘した。

最終的に裁判所は、065特許の審査経過によれば、特許権者が文言を「水とリン酸ナトリウムから成る混合溶液」と補正した時点で、クレーム8の前提部における「リン酸ナトリウム溶液」という文言に包含されることになるクレームの範囲を一部放棄したことになると認定した。Strykerの溶液は2以上のリン酸ナトリウムから作られていたことから、裁判所は、Strykerの溶液はNorianの特許を侵害していないと判断した。

Norianは、地方裁判所のクレーム解釈が非常に狭すぎることを理由としてCAFCに控訴した。しかしCAFCは、下級裁判所の判決を支持し、「a」という冠詞を単一のものを指すものとして限定することは、明細書及び審査経過にも合致していると述べて判決を維持した。

CAFCは、もし特許権者が主張した溶液中に、少なくとも1以上の種のリン酸ナトリウムを使用することをクレームするつもりであったならば、クレームの第一段落で用いられた文言と同じ文言を第二段落においても単純に使用していたはずである。

CAFCは、冠詞の「a」は、「〜から構成される」という文言を用いて、1つもしくは1以上を意味する、という一般的な規則として、判例KCJ 対 Kinetic Concepts事件, 223 F.3d 1351 (Fed.Cir.2000)を引用した。しかし、CAFCは、、「a」又は「an」といった冠詞は、「〜から構成される」という文言を使用していた場合に、文脈により1つもしくは2以上を指す可能性があることを示した別の判例、Elkay Mfg. Co. 対 Ebco Mfg. Co.事件, 192 F.3d 973(Fed. Cir. 1999)も引用した。

Norianは、審査経過によって、補正されていないクレームの文脈が限定されることがないよう、補正されたクレームの文脈を考慮すべきであると主張した。しかしCAFCは、Fantasy Sports Props., Inc. 対 Sportsline.com, Inc.事件, 287 F.3d 1108(Fed. Cir. 2002)を引用した。特許出願人がしばしば先行技術を回避するために 「〜以上(more than)」を放棄することは必要である。この判例によれば、裁判所は、特許権者が最終的にクレームした範囲に従い、その特許クレームが審査の過程で放棄を余儀なくされた範囲だけを放棄したものとして解釈すべきであるという特許権者の主張を認めなかった。

本判決は、訴訟においてしばしば挙げられる争点を取り上げたものであるが、被告にとって非常に有利な判決となった。Norian事件は、クレームを何気なく、また、不必要に限定しないために、特許実務者はクレームを作成する際に、「〜から構成される」という文言の使用を避けることが望ましい。また、潜在的に1つに限定される可能性のある冠詞、「a」を使用する代わりに「少なくとも1以上の(at least one)」を使用すべきである。

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