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月刊The Lawyers 2006年2月号(第79回)

2. Dane K. Fisher事件

No. 2004-1465 (September 7, 2005)

- バイオ技術関連発明について
米国特許法第101条の「実質的かつ具体的な」有用性に関する要件を明示した事件 -

世界中のバイオ企業が注目したフィッシャー判決において、CAFCは、表記された配列タグ、あるいはDNAの構成要素であるヌクレオチド配列タグに関する「実質的かつ具体的な」有用性の基準について初めて言及した。

CAFCは、モンサント社の5つの配列タグ(以下、「ESTs」)に関する特許を無効とする特許審判抵触審査部(以下、「BPAI」)の決定を支持した。

その決定において、BPAIは、基礎となる遺伝子の機能が不明な状態で、「クレームされたESTsは、特許付与により現実世界に対して明らかな公共の利益を直ちにもたらすほどには、研究も理解もされていなかった」と判示した。

CAFCは判決において、39年前の最高裁判決であるブレンナー判決(Brenner v. Manson, 383 U.S. 519 (1966))による、「実質的かつ具体的な」有用性という理論的解釈をバイオ技術関連事件に採用した。Brenner事件の理論的解釈は、2001年の米国審査基準には記載されていたものの、以前は電気・化学製品のような他の分野においては採用されても、バイオ技術の分野では採用されていなかった。

CAFCは、この基準は化学・バイオ分野にも広く適用可能であり、USPTOはESTsの用途に関する高度な基準を適用しなかったと認定した。

CAFCは「実質的な」有用性という文言は、「実用的な」もしくは「現実世界の」有用性に換言可能であり、「その時点で開示される形態において、主張されている有用性がクレームされた発明が重要で現在利用可能な公共の利益を有することを示すものでなければならず、更なる研究の後に将来的に有用なことが証明されればよいというものではない」と述べた。

同様に、CAFCは、「具体的な」有用性について、「出願は、漠然としすぎて無意味にならない程度に有用性を開示しなければならない」こと、すなわち、「主張されている有用性は、クレームされた発明が明確な特有の公共の利益をもたらすために利用可能であることを示すものでなければならない」と説明した。

CAFCはこの「実質的かつ具体的な」有用性の基準を適用し、モンサント社が主張する有用性(7つの「具体的かつ実質的な」有用性)は実際には「実質的」でも「具体的」でもなく、USPTOの有用性に関する明瞭な基準の要件を満たしていなかったと認定した。

CAFCは、ESTsには実質的な有用性があり、ESTsは未知の特性をもつサンプルに関する情報をもたらすために用いられる研究器具である点で顕微鏡と似ている、という類似点を挙げたモンサント社の主張を退けた。

CAFCはまた、ESTsは、特定の明確な現在の公共の利益を何も提供しない、更なる研究の単なる出発点にすぎないと結論付け、フィッシャーが主張する有用性は仮想の可能性を示しているにすぎないと認定した。

CAFCはさらに、「とうもろこしのゲノムの遺伝子から転写されたEST」は、主張されている有用性のいずれかを実現可能である、という点で、ESTsには特定の有用性があるとしたモンサント社の主張を拒絶した。主張されている有用性は単に「一般的な有用性であり、米国特許法101条を満たす特定の有用性ではない」と認定された。

特に注目すべきことに、フィッシャーは出願において、とうもろこしに関し3万個以上のESTsを確認しているにも関わらず、わずか5個のESTsしかクレームしていなかった。もし、その5個のESTsに特許性があったならば、Fisherは30000個以上の残りのESTsについても、更に出願することができたはずである。政府及び多くの業界団体が各々にこの点を強調する参考意見書を提出しており、ESTsに特許性を認めることは、研究意欲を削ぐものであり、科学的発見を遅らせる可能性がある、との懸念を表明していた。

CAFCはこれらの公的秩序に関する懸念事項について明確に言及することは避け、101条の有用性の要件を満たしていないことを示す判例の解釈に依拠した。

フィッシャー判決に関して、CAFCは、バイオ技術発明の「実質的かつ具体的な」有用性に関する米国特許法第101条における要件を明示した。従って、特許実務者は、現状での発明の意図がもたらす現状での利益を特許明細書に記述しなければならない点に注意すべきである。

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