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月刊The Lawyers 2005年11/12月号(第77回)

1. Phillips 対 AWH Corp.事件

No. 03-1369, -1286, 2005 WL 1620331 (Fed.Cir. July 12, 2005)

- クレーム文言解釈における外部証拠 -

2005年7月12日、CAFCは知的財産界待望の判決を下した。それは、地方裁判所がクレームの範囲を認定する際、何を基に考慮すべきか、という長期にわたって議論されてきた問題である。

CAFCの過去の判例では、クレームの文言にはその発明がなされた当時の当業者が理解する通常の意味が付与されると判決していた。大法廷においてCAFCの多数意見は、クレームはまずその特許明細書およびその審査経過を参酌し解釈されなければならず、その後、ある限定的な状況においてのみ、辞書や専門家の証言が参照されるとしていた。

また、CAFCは、連邦裁判所は地方裁判所のクレーム解釈にどの程度従うべきかを問う質問には答えていなかった。この問題に関する多数意見の沈黙は、強い批判を浴びた。

本件は米国特許第4,667,798号(以下「798特許」)に記載の、安全な壁や部屋を作るための組み立てユニット(モジュール)に関するものである。

地方裁判所は、そのクレーム1を解釈する上で、「スチールシェル壁から内側に延在する内部スチールバッフル」という文言に注目した。

そして、クレーム解釈上の問題の解決の糸口を、構造を言及する文言である「バッフル」の解釈に見出した。

地方裁判所は798特許明細書を参考にして、「バッフル」という文言がモジュール壁に対して垂直(90°)に形成されたものを含まないと限定的に解釈し、その解釈をもとに、非侵害の略式判決を下し、CAFCの合議体では地方裁判所の判決が2対1で維持された。

しかし、再審理の申立てにより、大法廷で再審理され、この判断は取り消された。

大法廷において多数意見のBryson裁判官は、「裁判所がクレームの範囲を認定する際、一体どの程度特許明細書に依拠すべきか」をもっとも重要な問題として位置付けた。クレームでしばしば特許権者が用語を独特に使用する場合があることを踏まえた上で、多数意見は明細書の重要性を強調した。

なぜなら明細書には「通常とは異なる意味で、クレームの文言が特許権者により特別に定義されている場合がある」からである。

それ故多数意見は、クレーム解釈は明細書に基づくべきであると判示した。同様に、多数意見は、審査経過もまたクレーム解釈の主要な資料として活用されるべきであると述べた。

というのも、審査経過は「発明者がどのように発明を捉え、また、発明者が審査経過において発明を限定したかを示し、クレームの文言の意味を与えるものである」からである。

一方、多数意見は、クレーム解釈の資料として辞書や専門的証言といった外部証拠の優先順位を下げた。裁判所はその根拠として下記の事項を挙げた。

1)外部証拠は、特許明細書のように特許を取得するために作成されたものではない。

2)外部出版物は必ずしも問題となっている分野の技術者のため書かれたものではなく、或いは、その分野の技術者が書いたものでもない。

3)外部証拠、特に専門家の証言は、訴訟中に訴訟のために作られたものであり、それゆえ偏見を含む危険性がある。

4)外部証拠は事実上無限に存在する。

5)外部証拠に頼りすぎると、クレームの本来の意味が変更され、さらには矛盾するものになる危険性もあり、特許制度の公示機能が損なわれる。

そして裁判所は、クレームの範囲を認定するに際して特許明細書を超えて辞書の重要性を示した、Texas Digital Systems, Inc 対 Telegenix, Inc., 308 F.3d 1193(Fed. Cir. 2002)事件において取られたアプローチを明白に否定した。

裁判所は、Texas事件ではそのクレーム解釈において、文言の抽象的な意味に不必要に焦点が置かれ、特許明細書および審査経過は単に、複数ある辞書的意味の中でどれが一番発明者による文言の使用に一致するのかを決定するためだけに参照されたものとした。

結果、Texas事件は明細書の役割を不必要に限定し、クレーム解釈を「記述されている文脈から完全に遠ざける」方向に導いた。

多数意見は最終的に、辞書や他の外部証拠の適切な使用を排除するものではないことを強調しつつ、裁判所は「あるクレームの文言に関して、その膨大な定義からスタートしそれを削っていくよりも、最初に特許権者がどのようにその文言をクレーム、明細書、審査経過において使用しているかに焦点を置くべき」であると述べた。

この事件に戻り、CAFCは、798特許のクレームおよび明細書を考慮すると、「バッフル」という文言は限定的に解釈されるべきではないと認定した。こうして、CAFCは地方裁判所の略式判決を取り消し、特許侵害の審理を地裁に差し戻した。

多数意見は、事実審裁判所のクレーム解釈の認定にどの程度従うべきかという問題について言及することを避けた。その代わりに、多数意見は特許クレームの解釈は純粋な法律問題であり、したがって改めてCAFCによって審理されるべきであると判示した、過去のCybor Corporation v. FAS Technologies, 138 F.3d 1448 (Fed. Cir. 1998)事件における大法廷判決について言及した。

Mayer判事は多数意見のクレーム解釈のアプローチを否定し、「事実の要素を欠いたクレーム解釈は法律問題であるという欺瞞に、裁判所が固執することは無益であり、実に不合理である」と彼の考えを述べた。

Mayer判事によれば、裁判所がクレーム解釈の認定を初めから審理することは、地方裁判所の役割を縮小させることになり、法律の混乱を招くものである。

代わりにMayer判事は、クレーム解釈は事実の調査を含むものであるから、このような認定は明らかな誤りとして審理されるべきであると主張した。

この裁判の今後の経過を見守るとして、Phillips事件は知的財産界において間違いなく非常に重要な事件であるだろう。

特許出願人は、明細書は不明瞭なクレームの用語を明らかにする基本的な資料となることから、クレームおよび明細書に注意を払って準備し、レビューすべきである。

さらに弁護士は、クレームを解釈する際に外部証拠に余り依存しないよう、訴訟戦略を変更すべきであろう。

また、Mayer判事の反対意見は、Phillips判決において未解決となった、クレームの解釈を地方裁判所の認定にどの程度従うべきかという問題の重要性を強調することとなった。

おそらく今後、裁判所においてさらに議論されることであろう。

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