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月刊The Lawyers 2005年4月号(第70回)

2. C.R. Bard, Inc. 対 U.S. Surgical Corp.事件

(2004年10月29日 CAFC判決)

- 特許クレームの文言の解決に対する辞書的定義と明細書の記載の影響に関する判決 -

2004年10月29日にCAFCは、特許クレーム中の文言の定義を限定するためのサポートとなるような、特許明細書中の記載に関する意見を出した。

Michel判事の意見書において、CAFCは、United States Surgical Corp.(以下、"U.S. Surgical")はC.R. Bard, Inc. (以下、"Bard")が所有する特許のクレームを侵害していないという地方裁判所の略式判決を支持した。

特許はヘルニア治療に使用される装置に関するものであった。装置は本質的には下腹部の弱った筋肉壁の穴を埋めるものである。

Bardは、U.S. SurgicalがBardの特許クレームの一つを侵害するメッシュプラグを製造・販売し、これにより外科医による同特許の方法クレームの侵害行為を誘引したと主張し、U.S. Surgicalを訴えた。

両者は方法クレームの侵害誘引行為に関する係争については和解し、Bardはもう一方の主張に関するU.S. Surgicalに有利な略式判決に対しCAFCに控訴した。地方裁判所は、特許クレーム中に記述された 「プラグ」 は 「予め形成されたひだ」を含むように解釈されなければならない、と認定した。地方裁判所の判決は、明細書の審査と、クレームがミーンズ・プラス・ファンクションの限定を含んでいるという結論とのいずれかに依存するものであった。

両当事者は、U.S. Surgicalの係争装置がひだ付きプラグを有していなかった点で同意した。ひだを要件とするクレーム解釈に基づき、地方裁判所は非侵害の略式判決を下した。

控訴審においてCAFCは、地方裁判所のクレーム解釈を全面的に見直した。Bardは、Texas Digital Systems, Inc. 対 Telegenix, Inc.事件 308 F.3d 1193, 1204 (Fed. Cir. 2002)のCAFC判決を引用し、クレーム文言の通常の意味は、明細書や審査経過を含めた案件固有の記録にではなく、辞書の定義を用いて解釈されるべきであるとの原理を主張した。

Bardは、さらにTexas Digital Systems事件では、「クレーム文言の意味を決定する場合に、辞書の定義は、ともかくも案件固有の記録に勝る、もしくは優先される」と判示されていると主張した。

CAFCは、辞書の定義は案件固有の記録に勝るべきである、との主張は否認したが、地方裁判所のクレーム解釈は、Bardの方法論に基づいてもなお、支持されるべきであると認定した。

CAFCは、Texas Digital Systems事件判決の下で、もし 「案件固有の記録により明らかに文言に新たな意味が付与されたり、クレーム範囲が否認される」 場合でも、クレーム文言の通常の意味が、辞書的な意味により規定されるものではないと指摘した。

CAFCは、Bardの特許の明細書及び審査経過が共に、クレーム中のプラグがひだを有していなければならないことを示唆しており、したがって、プラグのクレーム文言の通常の定義が「快適」 で「柔軟」であるというのは不適切であると認定した。

特許の要約書及び「発明の概要」における記載は共に、表面にひだを有するプラグについて言及していた。Bardは、要約書あるいは発明の概要部分の記載は、クレーム解釈を決定付けるものではないと主張した。

CAFCは、記載位置はクレーム解釈に対し決定的なものではないとの点には同意したが、好適な実施形態のみについての記載よりも、発明全体についての記載の方が、クレーム文言の定義を限定するサポートになる、と認定し、さらに、クレーム文言は、単に明細書中の実施形態の全てが特定の特徴を含んでいることを理由に限定されるものではないが、実施形態の選択は意図されたクレーム文言の範囲を明らかにし得るものであると認定した。

CAFCは、明細書のある部分には、限定的な定義をサポートする記載が含まれることが多いが、明細書の文言にどのような意味が付されるかは、事件毎に決定されなければならないと述べた。

CAFCは、Bardの特許においてクレームされたプラグは、ひだ付きの表面を構成要件とするものとして、明細書中で全体的に定義されていたと結論付けた。さらに、CAFCは、実施形態にも図面にも、ひだを有しないプラグは記述されていないというU.S. Surgicalの主張は説得的であると認定した。

CAFCによる審査経過の審理により、最初の審査における補正及び主張では、ひだとクレームとの間の密接な関係が示唆されていたが、必ずしもプラグがひだを有することは要件とされなかったことが明確化された。

しかし、特許発明は、審査官に提出されたある先行技術に照らして再審査された。再審査の過程で、Bardは「発明のプラグの表面はひだ状である」と明確に主張して、先行技術引用例との差別化を図った。

結論として、CAFCは、独自の理由を認定し、明細書と審査経過の両方に基づいて、プラグはひだ状であることを要件とすると認定した。

さらに、CAFCは地方裁判所のミーンズ・プラス・ファンクションに基づく限定の解釈は取り扱わず、ひだに関する限定のみに基づいて非侵害との下級裁判所の認定を支持した。

この事件は、CAFCが、発明を全体として記載するとの記述を、特定の実施形態とは別に、クレーム文言を全体的に定義するものとして解釈することができることを明らかにした点で重要である。さらにCAFCは、クレーム解釈の際に、辞書における定義が、明細書や審査経過といった案件固有の記録に優先されるものではないと判決した。

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