1. トップページ
  2. 米国連邦裁判所(CAFC)判決
  3. 2005年
  4. 3. Fisher-Price 対 Safety 1st, Inc.事件

月刊The Lawyers 2005年1月号(第67回)

3. Fisher-Price 対 Safety 1st, Inc.事件

(2004年8月16日 CAFC判決)

- 訴訟提起直前に特許権が親会社から子会社に移転された場合に
子会社の逸失利益が認められるかどうかに関する判決 -

2004年8月16日、CAFCはSafety 1stが控訴審で挙げた以下の争点について判決を下した。

(1) 米国特許第6,274,755号(以下、755特許)及びデザイン特許431,940号(以下、D940特許)の販売による不特許事由に基づく有効性について。

(2)755特許は記載要件を満たしているのか。また、970特許及び米国特許第5,947,552特許(以下、552特許)に対するSafety 1stの侵害について、Fisher-Priceが損害賠償金を受け取ることができるか。

Schall判事の意見書においてCAFCは、D940特許及び755特許は販売による不特許事由により無効とはならない、755特許は記載要件を満たしている、Safety 1stの製品は552特許を侵害している、及び、Fisher-Priceは損害賠償金を受け取ることができるとした地方裁判所の判決を維持した。

しかし、Safety 1st がD940特許を侵害していると認定した地方裁判所の判決は覆した。

争点のクレームは、様々な幼児用の腰掛けや揺りかごに関するものであった。522特許は覆いのついた折畳式揺りかごに関するもので、揺りかごから幼児用の腰掛けへと変形可能なものであった。

755特許は幼児用のハーネスに関するもので、ハーネスの調節方法及びストラップ調節用のバックルから比較的自由になり快適に座ることのできる範囲を提供する方法をクレームしていた。

D940特許は幼児用製品のための装飾用のうねりがある覆いのような構造に関するデザイン特許であった。

Fisher-PriceはMattelの完全な子会社であり、争点の特許の譲受人である。

Safety 1stは幼児を保護するために覆いの付いた揺りかごを製造しており、その一部はバックルで締められた2本のストラップによって腰掛の状態にすることも可能である。

2001年1月26日、Fisher-PriceはSafety 1stに対し、争点の特許を含む複数の特許に対する侵害を主張し提訴した。

Markmanヒアリングの後、裁判所は552特許に関する均等論に基づく非侵害を取り消す略式判決を下した。

陪審裁判では、Safety 1st の製品は552特許のクレーム36,755特許及び940特許を侵害しており、755特許は明細書の記載要件の不備を理由に無効とはならず、Fisher-Priceは十分に自社製品に注意を払っており、Safety 1stの特許侵害は故意であり、Fisher-Priceは逸失利益の損害賠償を受ける権利があると認定された。

事実審裁判所は損害賠償額の算定のための新たな裁判に入ること以外には、陪審評決を覆す理由はないと認定した。

Safety 1stは、販売による不特許事由の判決、D940特許侵害、及び552特許侵害及び損害賠償に関する裁判所の判決に対し控訴した。

一方Fisher-Priceは、地方裁判所が、提訴した製品のうちの1つによる侵害の証拠を損害賠償の裁判から除外したことは、裁量権の乱用であると主張し反訴した。

CAFCは、アジアの製造供給元からの最初の見積書は、販売による不特許事由を生じる正式な販売申込であるというSafety 1stの主張を認めなかった。

最初の見積書はその後の長い交渉プロセスの始まりにすぎず、契約日迄は最終的な合意には至っていなかったと認定したのである。

CAFCは、755特許のクレームが出願当初の開示範囲よりも広義であったというSafety 1st の主張も否認した。また、755特許は必要な明細書の記載要件を満たしていないという主張も否認した。

Safety 1stは、D940特許の侵害に関し、陪審評決が「新規性のポイント」についての実質的証拠によってサポートされておらず、Fisher-PriceはD940特許と先行技術のプロトタイプ・モデルとの差異を示していなかったと主張した。

CAFCはこの主張には説得力があり、Fisher-Priceは先行技術とD940特許との差異を示す必要要件を満たしていなかったと判示した。

Safety 1stは552特許のクレーム36に対する非侵害に関する2つの主張を提示した。第一に、「一対の着脱式サポートストラップはレセプタクルに接合することによって固定され、第一の端部を所定の角度にするために連結される」というクレーム中の限定事項は審査経過禁半言を生じていると主張した。

CAFCは、Safety 1stの先行技術特許に基づくこの主張には、審査経過禁半言の主張に必要な構成の説明が欠けていると認定し、552特許はそのように限定されないとした。

第二に、Safety 1stは、係争対象製品は「サスペンション部に可動的に接続される折り畳み式サポートフレーム」というクレーム36の限定を備えていないと主張した。

CAFCは、「可動的に接続される」という限定に関するSafety 1stの主張は、「サスペンション部」と「サポートフレーム」が共通して主な構成部分を持ちうるならば、選択されたクレーム文言の通常の意味に反するものであり、「可動的に接続される」という文言を、接続された部分同士で共有される共通部分となりえるものを本来意味していると限定する理由も無いとして、Safety 1stの主張を否認した。

Safety 1stはさらに、係争特許は訴訟提起される直前にMattel からFisher-Priceに移転されていたことから、Fisher-Priceは552特許及びD940特許の侵害による逸失利益を回収することはできないと主張し、自社はMattelと競合しておらず、特許権者が市場において競合していないならば逸失利益が生ずるような販売はありえないと主張した。

これに対しCAFCは、Fisher-PriceはMattelの完全な子会社であり、Safety 1stの証人が証言しているように、「Fisher-Priceが販売するものは、法的に、Mattelが販売する」ものであると認定してこの主張を否認した。

本件は、特許が親会社に所有されており、訴訟提起以前まで子会社に権利が移転されていなかった場合に、その子会社の逸失利益が認められる可能性について明示している点で興味深い。

  1. トップページ
  2. 米国連邦裁判所(CAFC)判決
  3. 2005年
  4. 3. Fisher-Price 対 Safety 1st, Inc.事件

ページ上部へ