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月刊The Lawyers 2005年1月号(第67回)

2. Wallach(米国特許庁から対CAFCへの控訴事件)

(特許庁から東京高裁へ出訴した事件と同様の事件)

- DNA配列についての遺伝子特許出願における記載要件に関する判決 -

2004年8月11日、CAFCは特許法における記載要件に関する意見書を発行した。Laurie判事の意見書は、米国特許商標庁の特許控訴抵触審判部(the Board of Patent Appeals and Interferences, 以下、「審判部」)からの控訴に対して発行され、米国特許出願番号08/485,129号の多くのクレームが特許法第112条の記載要件を満たしていないために拒絶されるとした認定を支持するものであった。

本件は控訴人が1980年代に腫瘍壊死因子("TNF")の細胞障害効果を選択して抑制する2種類の隔離たんぱく質を人間の尿から発見したことに始まる。控訴人は特定の分子量、部分配列及び腫瘍壊死因子の細胞障害効果を抑制する作用をもつたんぱく質、及びそのたんぱく質を符号化する隔離DNA分子をクレームした特許出願を行った。

数々の分割出願を行った後、本件で問題となっているDNAに関するクレームは不明瞭な記載を理由として特許法112条によって拒絶された。

審判部は、出願明細書においては特許性があると思われる遺伝子データが十分に特定されておらず、問題のクレームがそのクレームの主題に関して十分に記述的なサポートをもたない明細書に基づいている、との審査官の判断は誤っていないと判示した。これに対し、出願人は控訴した。

出願人は、抵触審査にかけられているものの許可された他の分割出願のクレームと本件で問題になっているクレームとは、許可クレームがたんぱく質を符号化するDNA配列ではなく、たんぱく質の部分配列に関するものであるという点を除いて他に違いはなく、そのような区別は無意味であると主張した。

また、たんぱく質の全アミノ酸配列順序は隔離たんぱく質に固有なものであり、その隔離たんぱく質は部分アミノ酸配列によって十分に特徴付けられている。よって、たんぱく質の全アミノ酸配列はたんぱく質を符号化する全てのDNA配列を有するものであると主張した。

出願人は更に、本件は過去の記載要件に関するケースとは異なると主張した。なぜなら、出願人は、クレームされたDNAによって符号化された実際のアミノ酸配列順序を提示しており、またそのDNAは一つのたんぱく質配列を符号化するだけで、その配列は明細書に実際に記載されているからである。

最後に出願人はEnzo Biochem, Inc. 対 Gen-Probe.事件(296 F.3d 1316(Fed. Cir.2002))のCAFCの判決に見られる機能と構造の関係を主張した。

USPTO(米国特許商標庁)は、明細書には実際のDNA配列もたんぱく質のアミノ酸配列順序も記載されておらず、ただそのたんぱく質を構成する185-192酸の10の配列のみ記載されていると主張した。

更に明細書には、クレームされているDNA分子が他のDNA分子とは異なっており、たんぱく質を符号化する核酸の特性は固有のものではないと判断しうる情報しか開示されていないと主張した。CAFCはこの主張を認めた。

CAFCは、出願人は一つのたんぱく質配列を符号化する核酸分子をクレームしているというより、たんぱく質を符号化する核酸をクレームしており、そのための部分配列を開示していると判示した。

またCAFCは、出願人の明細書にはアミノ酸配列順序のおおよそ95パーセントを開示しておらず、米国特許審査便覧2163U・A・3・a・Tにあるように、製品の付加的な特徴のない部分的構造では、クレームされている発明に特許を与えるには不十分な開示と判断した。さらにCAFCは、出願人はたんぱく質の全アミノ酸配列順序が部分配列順序及び開示されている限定された補足的物理学特性から推測されるとする証拠も挙げられなかったと判示した。

本件は遺伝子特許出願、特にDNA配列に必要な記載要件を示した点で重要である。

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